ミーコ先生の指示もあり、癌の可能性を示す石灰化をより詳しく組織を検査する為、
「マンモトーム生検」を受けることになった。
マンモトームって?マンモグラフィーとどう違うの?
サンダーとサンダガみたいな関係性?(ファイナルファンタジーより)
などと、最初は呑気に構えていたのだけれど、検査も近くなると落ち着かなくなる。いつものごとく、google先生に確認すると、マンモトームとは「画像を元に特定した位置の組織を穿刺し吸引するもの」だそう。組織診を大きな太い針でグサっとするイメージだ。
外科的な生検と違い、体への負担も少なく傷跡も小さくて目立たないそう。以前は外科的な生検が多かったと聞いたので、医学の進歩の恩恵を受けられて本当に有難いなと思う。
癌じゃなかった場合、私のコムネちゃんがもっと小さくなってしまうんじゃないかと密かに心配をしていたからだ。マンモトーム開発者の方に感謝!感激!敬礼!
そしてやってきた、検査当日。
ネットから色々情報を沢山かき集め、痛みがどのくらいなのか、傷跡はどのくらい、そもそも組織をとるって、どういう事?など、わからないからこその恐怖を、自ら増長させ怯えながら診察室に入った。これらは、ややM気質の私の得意技でもある。
追記すると私は血が苦手で、採血の時は目を逸らすし、予防接種の時も注射は見ないようにしている。胃カメラの時はコンタクトを外して見えないようにしてる、徹底ぶりだ。
要するに心配性で怖がりで痛みに弱い、とても厄介なタイプだと自覚している。だが後に、医師たちから痛みには強いタイプだと言われているので実際はどうなのかはわからない。一つわかっているのは、心配性だからこそ、検査を受けて石灰化が見つかったということもあり、心配性なのもそう悪い事ばかりではないと思いたい。
「はい、じゃあここに座ってくださいね」
マンモトームの先生は、女性でとても優しそうな人だった。余計な情報だけれど、付け加えるととても美人。看護師さんへの指示も柔らかく穏やか。
マンモグラフィーは立ったまま受けたけれど、それよりも二周りほど小型な機械があり、私の場合は椅子に腰掛けて行うスタイルだった。(寝て行う場合もあるらしい)
その後、何度も位置の確認と調整がされ、透明なプラスチック板で胸に圧が強くかかる。
まさにマンモグラフィを座って受けているようなイメージ。これはマンモグラフィとそう変わらないかも?
いや、違う、圧迫されている時間が長いので、地味に、これ、い、痛いんですけど、マンモトームさん・・・機械の端を手で掴むように指示されたものの、脇の汗で腕が滑り、これも地味に恥ずかしい。
検査の流れを説明されて、上体が動かないよう、看護師さんの腕が肩に添えられる。
「何か番組観たいのあります?変えましょうか?」
声のした方に視線を送る。右側にTVが置かれていた。看護師さん、脇汗の様子から、そのような余裕があるように、私見えますか。否、ない。
「あ、なんでもいいです。今のままで」
朝の情報番組のキャスターが笑顔で何かを話している。いつもは仕事をしている時間帯だから、観たことがない番組だった。そうこうしているうちに皮膚に注射針の感覚がした。
最初はチクっと痛みを感じたけれど、痛み自体は歯医者の麻酔より少し強いくらい。我慢できないような痛みではなく、しばらく経つとそれさえ感じなくなった。
「麻酔をかけても人によっては、痛みが少しあるかも知れません」
と言いながら、美人先生は優しく微笑んだ。私は頷く。平静を装ったものの、脇汗はもうMAXMAXだ。全く装えていない。
「じゃあ、いきますね。少し音がするかもしれませんから、耳を塞ぎますね」
今度はそっと、背後から看護師さんの手が耳に添えられた。左側で何かをしている気配がするけれど、あえて意識をテレビに集中した。もう既に頭が真っ白で、全く音も入ってこないけれどテレビの画像を眺めていた。
時々テレビの画面に表示されるテロップ。私の心が写ったのなら、大きな文字で「早く終わってくれ」と表示されただろう。
そして、すぐに耳の向こう側でバン、と音がして体に振動が伝わってきた。感覚はないけれど左胸の方で何かが動いているような気配。ここからは実際、見ていないので書けない。比喩ではなく目を背けていた。記録という意味では、見ておけば良かったかも思ったけれど怖いものは見ない一択。
ゲームでもホラーはしない。アトラクションなどもそうだけれど、お金を払って怖い思いをしないといけないのかがドM気質の自分でもわからない。ああああ、早く終わって終わって欲しい。そうだ、この戦争が終わったら、俺、結婚するんだ。って相手誰もいないじゃんか!しかもそれ、死亡フラグだし!
「このまま続けていきますね」
続けて何度か音を聞いた後に、耳が開放された。どうやら検査は終わったらしい。いつの間にか、胸の圧も、肩に置かれた手の感触も無くなっていた。位置を決めたり、調整するまでは時間はかかったけれど、局部麻酔を打たれてからはあっという間だったように思う。
「では、ここに寝てください」
すぐ側にある、処置用のベッドに流れるように促され、仰向けになると美人先生に上から胸を圧迫された。あ、ちょっと重痛い感じ。私の様子をちらりと見た後、止血しながら美人先生は続ける。
「本当はね、もう麻酔がかかっているから痛みはないんだけど、ごめんね。万が一痛い時に、患者さんが驚いちゃうから体が動かないように、そう言うの」
と、美人先生は私に覆いかぶさるようにして、ふんわり微笑んでいる。容姿端麗で優しく仕事が出来る才女、才色兼備とはこの事か、こういう方も世の中にいるんだなあと、ぼんやりした頭で思った。
美人先生は何かに似ている。そう、まるでベアトリクス。攻撃も回復も可能なベアトリクスだ。いや、ここ、病院だから攻撃する必要性は全くないんだけれど。ゲームだし。
私はファイナルファンタジー9が好きだ。
その理由が良くわかった、それはどこからどう、誰がみてもハッピーエンドだから。
「はい、そろそろ交代しますね」今度は看護師さんに交代。ベアトリクスではない、先生は病室から出て行った。その後姿に思う。
ありがとう、ベアトリクス先生。お陰様で一回でシロクロつきました。実際、一度で採取できないケースもあると後で聞きました。
ベアトリクス先生と会ったのは検査の時のみで、その後、お話する機会はなかった。
少しだけ、その後の話をすると、マンモトーム生検の傷跡は半年くらいはうっすら残っていた。7年経った今は全くわからない。すごくすごく、相当目を凝らさなければわからない。
そんなに目を凝らす機会などないので、ほとんどわからないと言っても過言ではない。だからもし、これから受ける人がいたら、心配はいらないと伝えたい。
脇汗MAXなのは、検査の為、抑汗剤が使えなかったからということにしておこう。夏にグレーのTシャツを着るほうが心配だ。
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